バーティノフマスク画像を使った傾き検知と補正

人工星像を作って傾きの補正をしようと考え、いろいろと試してみました。まずは、家にあった透明なビーズを黒い画用紙に貼り付けてみました。しかし乾燥したボンドが反射して丸い像がうまくできませんでした。同様にベアリングボール(直径0.1mm)もうまく貼り付けられませんでした。そこで単純ですが、穴を開けて星にしてみました。

ピンホール式人工星像

厚手の画用紙(色上質紙 北越紀州製紙 超厚口 黒 くろ ブラック 約0.26mm/ Y目 A4 10枚)を購入し、まずは裁縫針で穴を開けましたが、大きすぎてだめでした。次はピンバイス(タミヤ TAMIYA 74051 [精密ピンバイス S])を使い、0.3mmのドリル歯(タミヤ TAMIYA 74081 [極細ドリル刃 0.3mm])で約2500個の穴を開けました。この歯は折れやすく、3本を使いました。次は、これをLEDトレーサーに載せて撮影したものです。

星像はかなり大きいものの、PixInsightFWHM Eccentricityスクリプトで分析ができました。なおε-130Dでは、室内ではどうしてもピントが合わないため、Borg 71FL+フラットナーを使いました。

晴れた夜をむだにしないで偏心度を調べられるのは良いのですが、これからどのように補正をすればよいのかがはっきりしません。どの方向にどれだけの厚さのシムプレートを入れればよいのかが分かりません。また、フランジバックが合わないことによる星像の乱れも、問題を複雑にしています。そのため、まず傾き補正だけに専念し、バーティノフマスクの画像分析を行なうことにしました。これは、Alberto Ibañezさんの、SENSOR TILT ADJUSTMENTという次のサイトを参考にしています。
    https://aiastro.wordpress.com/2019/01/24/sensor-tilt-adjustment/

Bahtinov Grabberによるピント位置の検出

まず、バーティノフマスクの画像を分析する、Bahtinov Grabberというソフトが必要になります。これは画像を分析してピント位置がどちら側にどの程度ずれているのかを検出し、オートファーカサーを動作させるものですが、ここでは誤差の検出だけに使います。数値がマイナスであれば前ピン、プラスであれば後ピンであることを示します。ずれはピクセル数または、μmの絶対値で表示されます。なおこのソフトは次のサイトから無料でダウンロードできますが、作者が2012年に亡くなっており、開発もストップしているようです。
         http://www.njnoordhoek.com/?p=660

次の画像はオートフォーカス機能がついているものですが、これを省略したバージョンもあります。設定するのは、右側にある望遠鏡の焦点距離(f)と口径(D)、センサーのピクセルサイズです。

検出した値は、極めて正確だと思います。ほんの僅かなピントノブの動きにも反応します。それだけに僅かな揺れにも反応しますので、都会の空で撮影中に使うのには不向きかもしれません。次は、前と同じ方法で開けたピンホールの画用紙を使ったものです。


室内で撮影しても、僅かな床の振動で数値は動きますが、15秒平均のピクセル値を使えば、比較的正確に誤差が検出できます。次の画像は、19μm前ピンであることを示しています。

ピント位置の誤差による補正

センサーに傾き補正を行わないで撮影した画像の、ピントの誤差(μm)を調べます。TL(左上)、TR(右上)、C(中心)、BL(左下)、BR(右下)と誤差の数値です。なお中心(C)を、ピッタリと0にすることははなかなかできませんので、中心が0になるよう周辺の値を補正しています。


左上から右下(|TL-BR|)の傾きが36と最も大きく、右上から左下(|TR-BL|)の傾きが14と次に大きくなっています。そのため試しに、右下に0.36mm、左下に0.15mmのシムプレートを差し込んでみます。このあたりは適当ですが、センサーの端の傾きの10倍ほどにしてみます。

まだ完全ではないですが、TL-BR16TR-BL10と改善しています。Bahtinov Grabberによる傾き検出とそれに基づいた補正が、うまくいっていることを示していると思います。

この後、さまざまな組み合わせを試し、TLBLの中間つまりL0.08BL0.40BR0.16mmの補正をした結果です。

TL-BRTR-BLともに1μmであり、ほぼ傾きはなくなっています。しかし、中央から周辺に向けては1015μmの傾きが残っています。これは、次のような焦点面の傾きが現れているのでしょうか?しかしそうすると、誤差はマイナス値になるのではないでしょうか?このあたりはどうもよく分かりません。

https://aiastro.wordpress.com/2019/01/24/sensor-tilt-adjustment/

その後、フランジバックを0.28mm0.36mmで調整し、人工星像の周辺像で最も良いもの(0.29mm)が次のeccentricity画像です。完璧ではないものの、ほぼ満足できるものになっています。

これから

この一月ほど、レーザー光や人工星像を使った傾き検知と補正を試してみましたが、人工星像とバーティノフマスク画像とBahtinov Grabberによる解析が最も信頼性が高いように思えました。センサーがどちら側にどの程度傾いているのかまで表示されるので、素人なりに納得できます。これから実際に夜空で撮影してみます。

センサーの中心から周辺部の傾き(焦点面の傾き?)が大きいのは、ASI 183MMの特性でしょうか。それともBahtinov Grabberの誤差でしょうか。これから調べてみようと思います。


 ※追記(2021/3/21)

焦点面が湾曲しているのは当然でしたね。センサーのせいでも検出誤差のせいでもないようです。EdgeHDのサイトでは、42mmセンサーで200μmの湾曲があるが、被写界深度が300μmなので問題になることはないという記事がありました。ASI 183MMの1インチセンサーだと1/4で50μm程度の湾曲になるはずです。この光学系ではそれよりも小さいので問題はないのですが、対象が6.5mの距離にあるので被写界深度が浅くなり、ある程度目立っているということになるのかもしれません。


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