The Quest for Round Stars:円形の星像を求めて

 ロン・ブリーチャー(Ron Brecher)さんのSky & Telescope20196月号の記事"The Quest for Round Stars"を翻訳して公開したことは、以前に投稿しました。前回はファイルのURLを表示しただけでしたが、今回「星☆クラブ横浜」の会報「星くず」への投稿原稿で言及したこともあり、見やすいようにここに再掲します。多少内容は古くなっているかもしれませんが、これから長時間露光をしてDSOの撮影を始めようという人、または始めているが星がうまく丸くならないとう経験をしている人にとって、参考になることが多くあると思います。

銀河・星雲・星団の素晴らしい写真を見ると、誰でも感嘆の念を覚え、触発され、自分でもなんとか撮影しようとがんばってみるものです。しかしこのような写真を撮るには、長時間の露出をしなければなりませんので、その間にうまくいかないことがいろいろと起きるものです。その中には、自分ではどうしようもないものもあります。例えば、大気のシーイング、変化する空の透明度、強風などです。しかし自分でなんとかできるものもあります。その一つが、架台の機械的ながたつきです。これがあると、どの星も長く伸びたり、場合によっては二重星のようになったりします。もう一つが、光学系のコリメーション(視準)が合っていないことです。この場合は、視野の場所が異なると、星像が異なる奇妙な形になるので、何が問題なのかを突き止めるのが難しくなることさえあります。

 画像の星像は、撮影技術の何が問題かを突き止めて、それを改善するための大きな手がかりになります。機材の性能の限界まで星が丸くなるように撮影できれば、画像の後処理が楽になり、最終画像の見栄えが良くなります。以下では、よく起こる問題と、その対処法を取り上げます。対策は夜間に行う場合も、昼に行う場合もあります。

コリメーション

どんな撮影機材でも最初にチェックすべきなのは、コリメーションだと考えてよいでしょう。機材を構成する部品が平行に接続されていて、望遠鏡やレンズの中心を通る光がセンサーの中心に到達するのであれば、撮影機材はコリメートされていることになり、その性能を最大限に発揮できます。速い光学系(低f値の光学系)では特に、コリメーションが不完全だとその悪影響が大きく現れます。

 天体写真では、光学系が平行に接続されていなければならないのは当然ですが、さらにカメラのセンサーも適切な位置に設置されていなければなりません。重いカメラとフィルターホイールの組み合わせだと、フォーカサーのドローチューブをたわませることがあり、その結果光学系が平行でなくなります。屈折望遠鏡やカセグレン式望遠鏡では、望遠鏡が天頂の方を向いているとき、つまり重いカメラを載せたフォーカサーが、重力によって押さえつけられる方向と光軸が合っているときだけ、星像が丸くなることがあります。これによって、フォーカサーがたわんでいることが分かります。このたわみを解消するには、フォーカサー内部の緩んだベアリングやレールを締める必要があります。重いカメラを支えられるフォーカサーをアフターマーケット市場で探し、それに変更することも一つの手です。

 コリメーションの調整不足か、それとも別の問題が原因なのかを見極めるには、短時間露光と長時間露光の星像を比較します。短時間でも長時間でも星像が変化しないのであれば、追尾のエラーや、視野の回転などというその他の原因が排除できます。

 ディープスカイの天体撮影でさらに気をつけなければならないのは、カメラのセンサーが、撮影する望遠鏡の焦点面の中で傾いていないようにすることです。センサーが大きい場合は、このわずかな傾きの影響が大きく現れ、コリメーションが不十分な場合と同じような結果になります。ただしこの場合は、光学系やフォーカサーを調整しても問題は解決しません。センサーが傾いている場合は、望遠鏡がどこを向いていても、同じような症状が起きているように見えます。大きなセンサーの天体写真専用カメラには、カメラの前に押し引きネジの付いた調整プレートが付いていて、センサーの傾きを調節できるものがあります。たいていの屈折とマクストフ・カセグレン式望遠鏡は工場で調整済みであり、ユーザーがコリメーション調整をする必要がありません(ただ、上で述べたようにカメラとフォーカサーの調整は必要になる場合があります)。コリメーションについては、シュミット・カセグレン反射はS&T20182月号28ページの、ニュートン反射はS&T20194月号68ページの記事をご覧ください。なお、日中にニュートンおよびカセグレン光学系のコリメーション調整が行える特殊な器具が、Hotech社(hotechusa.com)から販売されています。

極軸合わせ

最高峰の赤道儀であっても、極軸が合っていなければ星像は丸くなりません。極軸が合っているとは、望遠鏡の極軸が地球の回転軸と平行になっていることです。私達の地球はこの軸を中心に回転しているため、星が天の北極または南極を中心に星が回転しているように見えます。目標が空を東から西に移動するとき、しっかり調整された架台はこの動きを相殺し、目標がずっと望遠鏡の中心を動かないようにすることができます。調整されていない赤道儀(および自動導入経緯台)でも、眼視による観察で目標を中心からずれないようにすることは可能ですが、少しずつ視野が回転しますので、このような機材は長時間の天体写真撮影には使えません。

 それでは、追尾して得られる画像の星像を丸くするために、どの程度正確に極軸を合わせなければならないのでしょうか。その答えは、露出時間、目標の空の位置、望遠鏡の焦点距離とピクセルスケール、場合によってはガイド星と撮影対象との角度のズレなどの要因によって異なります。 Richard Hook氏は、19892月号のThe Journal of the British Astronomical  Association誌で、極軸合わせに関する方程式を公開しています。その方程式を見ると、使用する機材で、架台に必要とされる極軸合わせの精度が分かります。

 この方程式で、Eは許容される最大の極軸合わせエラー(分角)、Sは視野回転の許容値(ミクロン)を表します。Dは目標の赤緯、Tは露出時間(分)です。 焦点距離(mm)はFで、Aはガイド星と、視野の反対側の端との角度(度)です。

 この式で分かるのは、露出時間が短くて、焦点距離が短いと、極軸合わせが不完全でもその許容範囲が大きくなることです。言い換えると、ピクセルスケールが大きければ、極軸合わせが不完全でも、より長く露出できることになります。

 自分の架台が、どの程度正確に極軸が合わせられていることが分かっていれば、方程式を次のように再構成して「自分の装置と極軸合わせのエラー情報から、星が楕円にならないようにする最大の露出時間は」という質問の答えを求めることができます。


 ピクセルスケールが14秒角の機器で撮影するとき、およそ15分までの露出であれば、極軸合わせのズレは3分角まで許容されことが分かります。

 望遠鏡制御ソフトとオートガイドソフトの中には、簡単に極軸合わせができるようなツールを提供しているものがあります。QHYCCDPoleMasterのようなハードウェアのツールを使うこともできます(S&T20187月号62ページ)。手動で行うドリフトアラインメントは、信頼性が実証されています。時間は掛かりますが、天の極軸がよく見えないところでも、しっかりとその機能を果たします。ドリフトアラインメントの説明書は、オンライン上でたくさん見つかります。

オートガイド

極軸合わせ、追尾、コリメーションをしっかり調整すれば、撮影画像の星像を丸くするのに効果がありますが、多くの望遠鏡の架台に対しては、目標を捉え続けるために、ちょっとした工夫をする必要があります。これは多くの架台が、ピリオディックエラー(PE)と呼ばれる、周期的に現れる誤差が生まれる歯車を使っているためです。これにより、視野がわずかに揺れ動きます。このエラーはたいてい、架台の技術仕様書の中で、例えば「PE±3秒角」のように書かれています。最高峰の架台では、ほとんど感知できないほどのレベルである1秒角未満に抑えているものもあります。このような架台では焦点距離が結構長くても、長時間のガイドなし撮影が可能になります。しかしほとんどの人にとって、長時間露光をするときは、視野内の目標の近くにある星でガイドを行い、このわずかなピリオディックエラーを修正する必要があります。

 ガイドはかつて手動で行われていました。そのために自分自身の目と十字線入りアイピース、多大な時間と労力が必要でした。幸いなことに、テクノロジーの進歩で手動ガイドは、30年ほど前に不要になりました。オートガイダーは小さくて安価なCCDCMOSカメラです。これを使って星を追跡し、長時間露光をしている間に必要になる追尾の修正を行います。

 オートガイダーの形態には、2種類があります。オフアキシスガイダーを付けた撮影鏡筒を通してガイドするか、別のガイド望遠鏡を撮影鏡筒の脇に取り付けるかのいずれかです。オートガイダーは、ガイド星と呼ばれる星を数秒おきにチェックして、ガイド星を中心に捉えて追尾し続けるのに必要な、照準修正情報を架台に送信します。

 たいていのカメラ制御ソフトには、オートガイド機能が備わっています。カメラ制御機能付きのTheSkyXbisque.com)、MaxIm DL (diffractionlimited.com)PHD2 (stark-labs.comS&T201712月号64ページにレビュー掲載)などです。オートガイドソフトの使い方と、トラブルの解決策についての優れた説明書が、たくさんオンライン上にあります。


 ガイド鏡を使ったオートガイドをしているときによく直面する問題の一つが、たわみの差(differential flexure)です。これは普通、ガイド鏡がしっかりと取り付けられていなくて、撮影鏡筒との間で動きにわずかな差が生まれるために起こります。オフアキシスガイダー(OAG)であれば、ガイド鏡そのものがありませんので、大きな問題にはなりません。OAGは望遠鏡と主カメラの間に設置されますので、小さな光路分岐プリズムを使って、鏡筒の光をガイドカメラのセンサーに向けるようにします。このプリズムは、主カメラのセンサーに影を落とさないで、なおかつガイド用の星が捕まえられる程度の、光路の端にするのが、正しい配置の仕方です。小さなプリズムで捉えられる視野には、十分に明るいガイド星が含まれていなければなりません。そうでない場合は、望遠鏡の位置を少し調整して、オートガイダーの視野の中に、ガイドに使える星を入れるようにすることもできます。

 OAGは、カメラとフラットナーやコマコレクターの間に置きますので、二つの間の光路長に十分な余裕があるかどうかを事前に確認しておく必要があります。

 オートガイドの効果は絶大ですが、だからといって必ずしも星像が丸くなるとは限りません。オートガイドを導入する前に、機器を物理的、光学的な観点から、最適になるよう調整しておくことをおすすめします。

バランスを取る

追尾を改善するのにもう一つ考慮すべきなのは、忘れずに架台の重量を均等に分散させておくことです。これによってモーターに掛かる負荷を最小限にし、撮影機材で最も重要な部品の一つの摩耗を軽減できます。機材とカウンターウェイトのバランスを取っておけば、追尾エラーを軽減するのに大きな効果があります。

 ドイツ式赤道儀では、最初に赤緯のバランスを取ります。このとき、機材をしっかりと押さえておきましょう。そうしないと、バランスがひどく崩れているときは、突然回転することがあります。架台は、カウンターウェイト軸が水平になるように、向けておきます。そして使いたい全ての機器(結露防止ヒーターなども)を取り付けた鏡筒(レンズキャプを取るのも忘れないように)も、水平になるようにします。赤緯軸のクラッチを緩めて、鏡筒をゆっくりと上下に動かします。どちらの方向へも楽に動かせれば、鏡筒は赤緯軸に対してバランスが取れていることになります。そうでなければ、鏡筒を鏡筒リングの中で前後に動かすか、アリミゾに沿って鏡筒を前後に動かして、調整します。しっかりと締め付けたら、赤経側に移ります。RAクラッチを緩め、今度はカウンターウェイトを軸に沿って動かすだけで、鏡筒のバランスを取ることができます。

 フォーク式架台のバランス調整も同じように行います。ただし、鏡筒の位置を動かすことができなければ、鏡筒に付けたレールに、カウンターウェイトを追加しなければならないかもしれません。

 機材の重量バランスが取れれば、全ての機器がしっかりと締め付けられていることを確認し、ガイド撮影をして鏡筒の動作をテストしてみます。子午線の反対側の目標に対しても、テスト撮影をした方が良いでしょう。

 架台のメーカーの中には、長時間露光をするときは、ほんのわずかバランスを崩して、東側を重くすることを推奨しているところもあります。 こうすることで、架台が目標を追尾して動いている間、 RA側のウォームギヤが常に噛み合っているようになります。もしこのようにバランスを崩すことが有効だと分かったら、最初にこれまでに説明したようにバランスを完璧に合わせ、それからほんのわずかのウェイト(たいていは50グラム程度で大丈夫)を、鏡筒がどちらを向いているかによって、鏡筒側もしくはウェイトシャフト側に取り付けいます。

 いつも気を付けなければならないのは、機器と制御用のコンピューターを結ぶ全てのケーブルが、きれいに束ねられて望遠鏡に沿っていることを確認することです。天体の追尾に悪影響を与えないよう、鏡筒に掛かる力を最小限にするためです。

うまくいかなければ

十分に計画をねったとしても、必ずしも期待どおりにいくとは限りません。そのため、星像がまだ少し尾を引いているようであれば、撮影後に星の形を修正するツールを使うという手もあります。

 例えば、PixInsightDeconvolutionツールにはMotion Blur PSFモードがあり、画像中の尾を引いている星の長さと角度を入力すれば、かなりうまく修正してくれます。またMaxim DL には強力なプラグインスクリプトがあり、長くなった星が修正できます(https://is.gd/trailfix)。ただ注意しておかなければならないのは、事後に行う修正は、事前に問題を解決して得られた画像ほど高解像にならないことです。星が長くなるということは、画像中の星以外の対象も不鮮明になり、その修正は星ほど簡単ではない、ということを心に留めておく必要があります。

   「良いデータは決して悪くなることがない」と言われるのを聞いたことがあるかもしれません。良い画像であれば、時間が経って画像処理のスキルが向上し、美的感覚が変わったときでも、再処理が可能です。残念ながらその逆は成り立ちません。悪いデータは決して良くはならないのです。次の晴れた新月期までに、撮影システムが最高の性能を発揮できるよう、時間を掛けて整備する必要が、ここにあります。天体観測に最適な夜、コンピューターの前に座って、撮影したどのフレームの星像も、締まっていて丸くなっているのを見ることほど、満足できることは他にありません。

■ロン・ブリーチャーは、オンタリオ州ゲルフ市の自宅裏庭の観測所から、夜空を撮影しています。




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